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文系の学問って会社でも役立つの?スタートアップで働く大学院生と考える

「文学部なんて行って、就職は大丈夫なの?」

文学部生であれば、耳にしたことがある人も多いことばだと思います。かくいう僕(『CAIXA』副編集長・小池真幸)も、哲学や歴史を研究する人文系の学部出身。近しいことは何度も言われました。

ましてや、文系で大学院まで行く人は、場合によっては“世捨て人”だと思われているかもしれません

そもそも日本は、先進国でほぼ唯一、博士号取得者が減少の一途をたどっている国。ただでさえ、研究者は厳しい環境に置かれています。しかも「文学部不要論」が世間を賑わせることもある、このご時世。文系の研究経験を活かすキャリアの選択肢は、きわめて少ないのが現実でしょう。

正規ポストが空くのを待ち、非正規の立場で研究に勤しむ。もしくは、仕方なしに研究とはまったく関係のない仕事に就いていく…そんな光景を思い起こす人も少なくないのではないでしょうか。

もちろん、研究は短期的に成果が現れるものではありません。特に文系の研究は、一般人にはその成果が理解しにくいものも多いと思います。

だって、「存在と知―前期ハイデガーの解釈学的現象学―」と言われて、そのすごさをパッと理解するのはなかなか難しいですよね?(東京大学大学院人文社会系研究科のWebサイトより抜粋)


……しかし、本当にそれでいいのでしょうか?

僕自身、所属していた研究室で、優秀な大学院生たちを目の当たりにしてきました。優秀なビジネスパーソンと比べても、その能力は引けをとらないと思います。

文系の院卒人材には、もっと活躍の場があっていい–––。

そんな問題意識を漠然と抱き続けるなかで、とある取り組みを見かけました。2019年6月に企業価値1,000億円超えで上場を果たした、国内有数のスタートアップ・Sansanが開催していたイベント「SocSci Meetup ~社会科学をブートする~」です。俳優の松重豊さんが出演しているテレビCMをよく見かける、あの会社ですね。

Sansanが社会科学の専門家たちを雇って研究開発を進めており、その活動を広めるべく、トークイベントまで開催しているというのです。これ、文系の研究経験を持つ人たちが活躍の場を広げていくうえで、かなり希望が持てる話ではないでしょうか?

本企画では、東京大学の博士課程で社会ネットワーク理論の研究に従事しつつ、SocSci Meetupをリードする、Sansanのデータサイエンティスト・前嶋直樹さんにインタビューしました。文系アカデミック人材にとっての「会社の価値」を考えていきます。

「会社」は、取引コストを下げるために存在する

小池:前嶋さんは、東京大学の博士課程で社会ネットワーク理論を研究しつつ、Sansanでデータサイエンティストとして働かれているんですよね?

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Sansan株式会社 研究員/東京大学大学院人文社会系研究科 博士課程・前嶋直樹氏
東京大学大学院人文社会系研究科で修士(社会学)を取得後、同大学院博士課程に在籍しながら、大学の先輩の立ち上げたベンチャーにてソーシャルメディアのビッグデータ分析や調査集計サービスの構築に従事。2018年2月よりSansan株式会社に入社。現在は名刺交換データの価値を最大化するようなサービス開発や基礎研究に取り組んでいる。

前嶋:はい。Sansanの研究機関「DSOC」に所属し、主に「ビジネスマンタイプ分析」などの実験的な機能を開発しています。

小池:どういった機能なのでしょう?

前嶋:名刺交換の傾向を5つの項目で数値化し、ビジネスパーソンとしてのタイプを分析するものです。分析結果は、メンバー個人の振り返りや、チームづくりを考えるときに活用できます。わかりやすく言うと、「どんな人とつながっているか」を分析することで、その人の強みや弱みが分かるんです。

小池:おもしろいですね! 開発には、前嶋さんが大学院で研究されている社会ネットワーク理論の知見が活かされている?

前嶋:おっしゃる通りです。社会ネットワーク理論の一分野である社会ネットワーク分析の研究で、「チームには、外部との橋渡しをする人材と、メンバーを結束させる人の2タイプが共存していた方がいい」ということが明らかになっています。

橋渡し型と、結束型。どちらか一方では不十分で、両方いなければいけません。いくら橋渡し型の人が斬新な発想を持ち込んでも、結束型の人がいないと形にならない。逆に、いくら結束型の人が豊富で実装力があっても、橋渡し型の人がいないと、イノベーティブな発想は生まれない。

ビジネスマンタイプ分析では、各メンバーが橋渡し型/結束型のどちらなのかを分析した結果を勘案して、社内のチームビルディングを行えないか模索しています

小池:最近のビジネスパーソンは、発散的にアイデアを出す“風呂敷広げ人”と、アイデアを実現にこぎつける“風呂敷畳み人”を対比する図式をよく使っています。アカデミックな研究対象にもなっていたとは…。

前嶋:他にも、社内のコミュニケーションコストを下げるための方法についての研究を、プロダクト開発に活かせないか考えています。

会社が100人以上の規模になると、面識がない人も出てきますよね。知らない人にコンタクトを取りたいとき、共通の知り合いを介することで、かなりコミュニケーションコストが下がる。社会ネットワーク理論では、「トランジティビティ」や「推移性」と呼ぶのですが、“友達の友達どうしは友達になりやすい”傾向を利用して、社内でアプローチしたい人との共通の同僚を教えてくれる機能を開発しているんです。

「自分の知り合いが誰か?」はみんな知っていると思います。しかし、「自分の知り合いが誰と知り合いか?」までは、人間の認知能力を考えると、カバーできる範囲に限界がある。だからこそ、テクノロジーによって補完される必要があると思うんです。

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『CAIXA』副編集長・小池真幸

小池:これまたおもしろい…。たしかに、優秀なセールスパーソンで、アポイント先の人との共通の知り合いを必ずFacebookでチェックして、さりげなくトークに混ぜ込んでいる方もいますよね。

前嶋:そうですね。ただ、それは職人芸のようなものなので、できるだけ万人が使えるツールを開発したい。

もっと原理的な話をしましょう。これについてはさまざまな批判があるかとは思いますが、経済学には、「そもそも会社というものは取引コストを下げるために存在する」とみなす立場があります。

小池:どういうことでしょうか?

前嶋:ビジネスを行うだけであれば、全員が個人事業主でもいいはずですよね。それにもかかわらず、会社という組織形態を取っている理由は、社内で共通の理念や制度があると、コミュニケーションコストが下がるからです。そうした本来の機能を最大化するために、社会科学の知見とテクノロジーを掛け合わせていきたいんです。

小池:なるほど。会社が取引コストを下げてくれることは、いま前嶋さんがSansanで働かれているなかでも実感されていますか?

前嶋:めちゃくちゃ感じますね。たとえば新しいプロダクトを開発しようとするとき、単純にデータだけを眺めていても、その意味はなかなか見えてこない。そんな時、営業の方に少し現場の様子をヒアリングするだけで、景色が大きく変わることも少なくありません。

アカデミックな世界では、社会調査やインタビューを行うとなると、手間も時間も膨大にかかるんですよ。設計からアポ取り、インタビューまで、多くのプロセスを踏まなければいけない。一方で、会社にいれば、データを生み出す主体に、低コストかつスピーディーにアプローチできる。もちろん学術的な調査に比べると普遍性は薄れますが、たいへん恵まれた環境だと思っています。

DSOCとの出会いは、たまたま

小池:文系の研究を会社で活かすキャリアって、かなり珍しいと思うのですが、前嶋さんはどんな経緯でジョインすることになったのですか?

前嶋:詳しい経緯は以前書いたブログ(社会学の院生がITベンチャーの研究開発職に就くまで、そしてこれから)を読んでほしいのですが、もともと修士課程のときに留学を考えていたものの、色々あって挫折。博士過程には進学しましたが、研究奨励金をもらえる特別研究員の制度にも応募していませんでした。

とりあえず当座の生活費のために、大学院の先輩が立ち上げた小規模な会社で、アルバイトとしてSNSのビッグデータ分析を手がけるようになりました。データ分析の実務的なスキルを積み上げていくなかで、2017年秋にたまたま、Sansanで社会科学系データサイエンティストの求人が出ているのを見つけたんです。

ネットワーク分析をはじめとした社会科学系の知識と、データ分析の実務的なスキルが要件とされていて、「これは僕しかいないだろう」と思って応募しました。そして2018年の2月、DSOCに参画することになりました。

小池:運命的ですね。アカデミックなバックグラウンドに加え、元からデータ分析の実務経験もあった前嶋さんのような人材は、社会学の研究室の中では珍しかったのですか?

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前嶋:シンクタンクやコンサルティングファームに行く人は多いですが、IT企業でデータ分析や研究開発に従事している人は、珍しいのではないでしょうか

小池:かなり尖った存在だったんですね。

前嶋:僕の出身の東京大学の社会学研究室は、宮台真司さんや大澤真幸さんといった社会学者を輩出したことで有名です。伝統的に、現代思想寄りの社会学の拠点となっていました。

ただ、僕たちの世代で若干、実証寄りの研究を行う人が増えていく流れがあって。自主的な勉強会もたくさん開き、統計的なアプローチを身につけたからこそ、データ分析のアルバイトの話が来るようにもなりました。

小池:研究の経験は、いまの仕事にどのように役立っていますか?

前嶋:まず、正確なデータ分析を遂行するのに役立っています。「どういった条件が揃うと『因果関係』と呼べるのか?」といった学術的なルールから、ユーザーインタビューにおける、前後の質問が与える影響なども考慮したアンケート設計、サンプリングの方法まで…。一見専門性が必要なさそうだけれど、特殊なテクニックが必要なシーンはたくさんあります。

小池:たしかに、ビジネスの現場での数値検証やユーザーインタビューは、アカデミックなものと比べると、かなり大雑把なイメージもあります。

前嶋:ビジネスに精緻さを持ち込む意味では、概念を定義するスキルも研究生活で身につきました。たとえば、最近バズワード化しつつある「関係人口」。言葉だけ見るとふわっとしているのですが、何を見るために、何をどのように測定するのか、僕は厳密に定義しています。

研究の世界では、「何が見たいのか分からない」というフィードバックを日常的に厳しく受けてきたので、概念の厳密さにはこだわっています。ビジネスの世界では、「ほんとか?」「これ、どこまで言えるの?」といったレベルで、概念をぶち上げることもよくあるので(笑)。

研究開発チームにおける、目標設定のむずかしさ

小池:前嶋さんが所属されているDSOCという組織も、おもしろいですよね。経済学から工学まで、さまざまなバックグラウンドをもった研究員の方々が、研究開発に取り組まれている。

前嶋:DSOCは一言でいえば、Sansanの「データ化」と「データ活用」を統括している組織です。取り込まれた名刺のデータ化に携わっている人もいれば、データ活用のための研究開発に取り組んでいる人もいます。

取り込まれた名刺の画像処理に取り組むチーム、機械学習的なアプローチで蓄積されたデータを活用するチーム、そして社会科学的なアプローチで取り組むチームの3チーム体制を敷いています。僕が所属している社会科学系のチームには、博士号持ちが2人、修士号持ちが3人おり、バックグラウンドも経済学、経営学、社会学、計算社会科学など多様です。

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DSOC公式サイトより)

小池:社会科学系以外のチームと組んで、プロジェクトを進めることもあるのでしょうか?

前嶋:もちろんあります。研究室にいるだけではなかなか出会えない、他の領域の専門家と議論しながら開発できるので、学際的な刺激を受けていますね。

小池:かなり魅力的な環境ですね。とはいえ、Sansanにとってはかなり思い切った投資ですよね? 研究開発は、成果が出るのに時間がかかるどころか、まったく成果に結びつかないケースすらある。

前嶋:そうですね(笑)。ただ、社内で必要になったデータ分析やシステムの実装を手広くお手伝いしたりもしているので、バランスは取れているのかなと思います。

小池:あと気になるのが、会社としての評価や目標設定はどのように行っているのでしょう?研究開発チームの組織マネジメントは、短期的に成果を評価できないぶん、難易度が高そうな印象があります。

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前嶋:まさに、すごく難しくて、僕たちも試行錯誤しているところです。DSOCの部署単位で定めているOKR(※)に加えて、社会科学系のチーム内でもOKRを設定し、個々の専門的な活動の進捗を管理しています。これは社会科学系チームのリーダーの発案で、現状はうまく機能していると思っています。

※OKR……「Objectives and Key Results(目標と主要な成果)」の略称。企業のミッションに紐づいて定義される定性的な目標「Objective」と、その達成に必要な定量的な数値「Key Result」をもとに目標管理を行うフレームワーク。近年では、とり入れるスタートアップが増えている。

エスノグラフィーから倫理まで。広がる文系学問の活かしどころ

小池:アメリカだと、Amazonをはじめとしたテックジャイアント企業が「デジタル経済学者」を雇用する事例も現れはじめています。Sansanのように、企業が文系アカデミック人材を採用する事例は、今後も増えていくと思いますか?

前嶋:増えるでしょうね。サイバーエージェントが立ち上げた、AIを活用した広告配信技術の研究・開発を行う「AI Lab」でも、経済学系の人材を積極採用していると聞いています。また海外では、マイクロソフトが文化人類学者を雇ってエスノグラフィーをしてもらい、UXリサーチに役立てた事例もあります。

小池:文化人類学者がUXリサーチ!おもしろいですね。とはいえ、日本におけるアカデミック人材不足は、ますます深刻化しています。先進国でほぼ唯一、博士号取得者が減少の一途を辿っているうえ、社会科学や人文学といった文系アカデミック人材に限ると、さらにキャリアが限定されてしまっていることは容易に想像がつきますよね。

文系アカデミック人材のキャリアとして、大学に残る以外に、どんな選択肢があり得ると思いますか?

前嶋:社会科学については、僕のようなデータ分析、データサイエンティストの道が少しずつひらけてきているとは思います。人文学だと、先ほどお話したようなUXリサーチに加えて、「倫理」的な知見を活かす場所も出てくるでしょう。たとえば、ジェンダー観点での炎上を理解するために、フェミニズムの歴史的な視点を踏まえないと分からないことは多いはずです。

小池:たしかに、GDPR(※)に端的に現れているように、ここ数年は世界的にテック企業が倫理的責任を問われるようになりました。人文学の蓄積は、豊富な示唆を与えてくれそうです。

※GDPR……EU一般データ保護規則。個人情報の保護という基本的人権の確保を目的に、企業による個人データの取得利用を規制するもの。EUで2016年に可決、2018年に施行された。

前嶋:情報と社会の接点、すなわち情報倫理を考える人が求められるようになると思います。ローレンス・レッシグという法学者は、人間の行為を制限するものは、「法」「規範」「経済」「アーキテクチャ」の4つがあると言っています。現状の企業には法務担当こそいても、「規範」について考える機能はないことが多い。だからこそ、人文学的なアプローチが有効だと思います。

小池:法律には違反していないけれど、ブランディング観点で悪いインパクトを与えるケースは少なくないですものね。要するに、「炎上」です。とくに昨今は、SNSによって分断が加速される、といった議論もよく見かけるので、炎上リスクはますます高まっているはず。

前嶋:エコーチェンバー(※)と呼ばれる現象ですよね。まさに、僕が学部時代から取り組んでいるテーマのひとつです。

※エコーチェンバー……閉鎖的空間の中でコミュニケーションを繰り返すことで、特定の信念が増幅または強化されること。近年では、SNSによってこの現象が加速していると言われている。

少し話は逸れますが、エコーチェンバー的な考え方だと、SNSのほうがより同質的な人どうしが集まりやすいという仮説が立ちます。しかし実際には、SNSでは、異質なものどうしのつながりのほうが多く見られることを示す研究結果もあって。

小池:一概に「SNSが分断を加速している」とは言い切れないと。思えば、先ほど話に挙がった宮台真司さんも、SNSが登場するはるか昔、1990年代から「島宇宙化(※)」を論じていました。社会的分断は、SNSだけが原因というわけではないのかもしれません。こうした示唆を与えてくれる点でも、アカデミックな専門性には高い価値があると感じます。

※島宇宙化……同じ価値観を持った者どうしで場をつくること。1990年代に、社会学者の宮台真司が紹介して広まった概念。

前嶋:ただ現状では、専門性を活かした職業には就きにくいのが実情です。僕はたまたま、データ分析の実務経験を得られて、かつデータサイエンスが盛り上がっていたので職を得られましたが、現実は厳しい。

だからこそ、DSOCの社会科学系チームでは、隠れテーマとして「社会科学のバックグラウンドを持った人にも多様なキャリアの選択肢があることを示す」というミッションを持っています。SocSci Meetupも、そのミッション達成の一環ですね。社会科学のおもしろさや有用性を、テック企業の人たちにアピールしていきたい。

小池:素敵な隠れテーマですね。

前嶋:ひとくちに社会科学と言っても、機械学習寄りの人から開発寄りの人まで、ほんとうに多様な人材がいます。DSOCは、けっこう何でもできる組織だと思う

個々のメンバーの専門性は活かしつつ、データ分析から開発まで、多くの要求に応えられます。まだまだ試行錯誤していますが、できるだけビジネスの世界と接続できるよう、日々の業務と発信に取り組んでいるんです。

小池:そもそも日本における文系の大学って、官吏養成機能か、もしくは夏目漱石のような高等遊民による研究機能からスタートしているという見方もできると思うんです。だから、民間からの社会実装という経路が、はじめからプログラムされていなかった面もあるのかもしれません。

前嶋:逆にいえば、文系アカデミック人材が、ある程度プログラミングやデータ分析を持ってさえいれば、かなり貴重な存在になれる。僕含め、DSOCのメンバーは「たまたま開発スキルを身につけていた」人ばかりです。開発リテラシーがあれば、エンジニアを巻き込んで実装する際も桁違いにスムーズになります。

最初から専門性を活かそうとしなくてもいい

小池:DSOCのような、文系アカデミック人材が企業で活躍できる場を広げていくために、まず打つべき一手は何だと思いますか?

前嶋:ちゃぶ台返しをするようですが、最初から専門性を活かそうとしなくてもいいと思います(笑)。

小池:ひっくり返してきますね(笑)。

前嶋:普通にエンジニアやセールスとして入社して、専門性を活かす機会が生まれるタイミングを待つ。DSOCにも、もともとエンジニアとして入社していたメンバーがいます。

一方で、企業側も、埋もれているアカデミック人材を活かすための働きかけをすべきだと思います。SocSci Meetupに来ていただいた方の中でも、「実は昔、歴史の研究をしていて…」「経営学を学んでいたのですが、仕事には活かせていなくて…」といった声が少なくなかった。埋もれているアカデミック知を活用できないか検討することは、機会損失を防ぐうえでもメリットがあるのではないかなと。

小池:言われてみれば、いきなり社会科学や人文学にまつわる求人を探すのは、かなりハードルが高いですものね。まずは堅実に就職し、チャンスを伺うことが大事だと。

最後に、前嶋さん自身が今後どのような取り組みをしていきたいか、教えていただけますか?

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前嶋:最近は、地方行政系のプロジェクトリーダーも務めているのですが、公益に資するテクノロジーやデータ活用に取り組んでいきたいです。「パブリック・インタレスト・テクノロジー(公益のためのテック)」と呼ばれるジャンルですね。

小池:研究面ではいかがでしょう?

前嶋:「どんな名刺交換が、その後のつながりの強化に結びつきやすいのか?」を、もっと明らかにしていきたい。名刺交換した人との“共通の友人の増え方”がつながりに与える影響を、データで予測したいんです。

ある人と名刺交換をしたとき、自分の知り合いも一気にその人と名刺を交換した場合は、強いつながりになりにくいんですよ。一人ずつ、徐々にコミュニティに入っていった場合のほうが、関係性が強まりやすい。これまで、共通の友人の多さとつながりの強さの関係についての研究はありましたが、“増え方”に着目したものはあまりなかった。

小池:たしかに、イベントやパーティーで一度に大勢の人と名刺交換しても、なかなか良い縁にはなりにくいですよね…。そうした場が苦手な僕としても、ぜひ進めていただきたい研究です(笑)。

DSOCとしては、今後も引き続き、社会科学とビジネスの接続を考えていく?

前嶋:もちろんです。2020年の2月27日には、Sansanの関西支店で、第3回のSocSci Meetupも開催します。社会科学とビジネス、相互に強みを還元しあえる状況を生み出していきたいです。

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あらためてインタビューを振り返ってみると、前嶋さんが自らの属性を「アカデミック」とも「ビジネス」とも定義していなかった点が印象的でした。

「文系の研究を活かせるキャリア」というテーマで始まった、この企画。

社会科学や人文学とビジネスをいかにして架橋していくか、かなり解像度が高まったことはたしかです。しかし、最も大切なポイントは、具体的なキャリア戦略や身の振り方といった話とは、別にあるのではないでしょうか。

つまるところ、大学も企業も、ある特定の目的を達成するためのプロジェクトチームにすぎません。

特定の“ムラ”にアイデンティティを依存することはなく、自分の想いや関心に正直に、あらゆる手段を使い倒す、前嶋さんのような姿勢が大切なのかもしれません。

自らを「アカデミック」とも「ビジネスパーソン」とも定義しないこと。逆説的ですが、それこそがアカデミズムとビジネスの接続を考えるうえで、大きなヒントをくれるはずです。

取材・文/小池真幸、写真/栗村智弘、編集/友光だんご

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