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「知らない人写真集」問題から考えるローカルメディアの難しさ 【Gyoppy! 1周年座談会】

2019年10月6日、海の課題解決を目指すWEBメディア「Gyoppy!(ギョッピー)」のローンチ1周年を記念したトークイベントが「魚谷屋」(東京・中野)で開催されました。

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登壇したのは、ヤフー株式会社の社員でGyoppy!プロデューサーの長谷川琢也、同編集長の久保直樹、オリジナルコンテンツ編集長・くいしん、Huuuu代表取締役でGyoppy!では監修を務める徳谷柿次郎の4名。

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写真左から長谷川琢也、くいしん、徳谷柿次郎、久保直樹

Gyoppy! が歩んできた1年を振り返る今回のイベント。この1年で話題となった記事の振り返りからはじまり、「ローカルのニッチな話題をどうWebに還元するか」という議論が白熱。そのほかにもオウンドメディアの理想形など、現場で奮闘し続ける4人だからこその話が盛りだくさんとなりました。

今回はイベントの一部をレポートします。

☆前半の話題になった記事に関しては、こちらの記事をご参照ください。


ローカルメディアは「知らない人写真集」になりがち問題

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柿次郎:このたびGyoppy! は1周年を迎えたわけですが、くいしんさんが印象に残ってる取材ってありますか?

くいしん:那智勝浦(和歌山県)のマグロ取材ですね。実際に船に乗せてもらったんですけど、これまでと世界が変わった感じがありました。

長谷川:あれ、やばかったよね! 船も小さかったし、天気も悪かったから、本当に「俺、死ぬのかな」と思ったもん。

くいしん:そう、漁師さんって、当たり前のようにみなさん命がけなんですよ。どんなにあがいても自然の力で簡単に死んじゃう。それを身をもって体感したときに、初めて神社とか神頼みの意味が腑に落ちたんですよ。それ以降、願掛けとかを見るたびにめちゃくちゃいいなと思うようになって。

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くいしん:しかも那智勝浦って、世界遺産の熊野古道をはじめとして、とにかく神秘的で自然のエネルギーがすごい場所なんですよ。「那智勝浦のマグロは熊野の水を飲みにくる」っていう話があるくらいで。

柿次郎:マグロって水飲むんですか!

くいしん:正確には水の中にあるプランクトンですね。要は山から海に流れ込んだミネラル豊富な水が黒潮とぶつかって、いいプランクトンが生まれるってことらしいです。山が豊かだからこそ、海の環境も良くなるという循環の話がめちゃくちゃ面白くて。

長谷川:こういう話、めちゃくちゃ面白いんだよねえ。

柿次郎:そう! 僕らは現場に行ってるし、もともと興味もあるから面白い。だけど正直、会場の皆さんはこういう話に全然ピンとこないでしょ?

(会場:失笑)

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柿次郎:みんな魚は美味しいから好きだけど、歴史や地理とかのディープな話まで行くと興味が持てなくなっちゃう。ましてや現場の漁師の話なんて、ニッチな話ばかりで普通の人はなかなか聞くのが大変だったりする。僕らにとってはめちゃくちゃ面白いんですけどね。

くいしん:そこをそのまま記事化したら、知らないおじさんが、知らないおじさんとよくわからない話をしてるのを読むわけですもんね。

柿次郎:写真もインタビュー中のカットだけになりがちだから、読者にとってはもはや「知らないおじさん写真集」みたいな記事になっちゃう。テレビみたいに、毎回の取材の時に船の上で写真を撮ることができれば、まだいいんですけどね。

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くいしん:企業側からすると、ただでさえ地方取材は費用対効果が悪いのに、そこまで予算かけられないですよね。

長谷川:そういう費用対効果みたいな物差しがベースになると、どうしても有名人に話を聞きがちになるじゃん。結果として、Web上には同じような情報が並んできちゃう。その点ではローカルメディアの価値って、普段は取り上げられないような人の話を聞くことにあると思うんだよね。

柿次郎:そうなんですよ。「普段は取り上げられないような人の話」の情報価値はめちゃくちゃ高いんですけど、Web上でそれを伝えようとすると、途端に難しくなる。やっぱりWeb読者の多くは東京みたいな都会にいるので、多くの人に読んでもらおうとするなら、「東京のオフィスで働いている、普通の人」と目線を合わせないといけないんですよ。

現場の「価値」をWeb上での「価値」に置き換える

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柿次郎:ここでひとつお話ししたいのが、久保編集長の力なんですよ。久保編集長はGyoppy!の運営元であるヤフーの社員。その立場から、こんな僕たちみたいな現場ゴリゴリのおじさんたちと、ヤフーというインターネットの大企業の間を取り持ってくれている。そこがすごいんですけど、それだけじゃない。

久保:はは…(苦笑)。

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柿次郎:久保さんは、現場の一次情報から僕らが感じた価値を、Web的にも楽しめるような視点に置きかえるのがバツグンにうまいんですよ。さらに「Yahoo! トップ」(Yahoo! JAPANのトップページ)の担当だっただけあって、タイトル付けもめちゃくちゃ秀逸なんですよね。

くいしん:わかります。本当にうまい。久保さん的には、これまでのなかで会心の記事タイトルってどれだったんですか?

久保:佐渡のエビの記事ですね。

柿次郎:あー! 20万PVくらい行きましたもんね!

長谷川:ほんとうれしかったもんなあ。PVを聞いた時は、みんな大騒ぎだったよね(笑)。

久保:ちょうど世の中でも、働き方改革に対する意識が高まってましたから。タイトルのワードが世間の風潮とかみ合いましたよね。

柿次郎:正直、僕はこのネタが取材候補に上がってきたとき、あまりピンとこなかったんです。佐渡のエビの話なんだな?ぐらいで。長野にずっといるから、東京のWebの感覚がわからなくなってるんだろうなぁ。

長谷川:しかもね、久保さんは毎日、Gyoppy!の記事をメールでヤフー社内に共有してくれてるんですよ。またその紹介の仕方がうまい!

久保:魚や漁業の話はもちろん面白いんですけど、東京のオフィス街の中で暮らしていると、どうしてもその辺の現場の感覚がわかりづらい。そこで、東京のオフィス街にいる人たちのための視点を考えて共有しますね。この記事は若者に刺さるとか。こういう見方なら今の会社員にも伝わりやすいとか。

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柿次郎:そういう意味では、このエビの記事がGyoppy!の転機になったところはありますよね。魚や漁業という視点以外の、もう一つの軸を探す方向性が生まれた。

くいしん:ビジネスとどう絡めていくか、みたいなアプローチが増えましたよね。

柿次郎:取材陣だけだと、どうしても現場の価値観だけで記事を作ってしまいがちなんですよ。その点、久保さんが一歩引いた目線で記事を見ることで、絶妙のバランスを取れるようになってきてる。

くいしん:ヤフーチームはすごいですよね。はせたくさんも現場の取材をひとりでしてきてくれますし。クライアント感が全然ない(笑)。

長谷川:そうだよ! 俺も一応ヤフーの社員だから、実はクライアント側なんだよ! みんな知らなかったと思うけど!

柿次郎:はせたくさんって企画、現場の取り仕切り、取材まで全部やってくれたりもする。ほんとすごいですよ。Gyoppy! って、クライアントと編集チームが有機的に絡み合う理想的なチームになってる感じはありますよね。


2年目のGyoppy! は「人材育成」がテーマ

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柿次郎:さて、Gyoppy! もこの10月から2年目に入りますけど、これからの展望はあるんですか?

長谷川:継続して続けるための方法を考えたいですよね。やっぱり続けていくことで生まれる価値は絶対にあるので。そのためにはやっぱりきちんと人材を育成していきたい。

くいしん:海に詳しいライターさんってことですよね。めちゃくちゃいい。とはいえ、一時期よりライターになりたい人が減った印象がありますね。

柿次郎:ライターって単発仕事ばかりだから、継続してお金を稼ぎづらいんですよね。だから若い人がライター・編集を志しても、育つ前に生活が立ちいかなくなってやめてしまう。そういう意味では、チームとして固定で雇えるとライターさんを育てやすいと思いますね。

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長谷川:いま、Gyoppy! でもチームとしてライターさんを雇って、定期的にお金を払い続けられる形を模索してますね。地域おこし協力隊って、一定期間は月額固定のお金が支給されるじゃないですか。似たような形で、行政からのお金を人材支援の方に回せないかなあと。高齢化も進んでるから、コンクリートを作ることに躍起になるより、人を育てるほうにお金を回したほうが絶対にいい。

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柿次郎:おお! それはめちゃくちゃいいですね。

長谷川:あと、お金もきちんと稼げるようにしたいですよね。結局オウンドメディアが潰れるのって、企業がコストを考えたときにメリットが薄いと判断されてしまうからだと思うんですよ。編集部視点で社会的な価値があると信じてやっていても、企業側からの視点だとお金の兼ね合いもあるから。

久保:地方取材はコスト面を見ると、どうしても効率が悪いので、ヤフーくらい資本がないと持続は難しいですもんね。

長谷川:そう! とはいえ、結果を出さずにいつまでも会社側からお金を出し続けてもらえるわけではないので、僕らも会社に価値をアピールしながら頑張っていかなきゃいけない。Gyoppy! 自体も漁業系の方々から評判はいいと聞いてるし、徐々に認知され始めているので、頑張って続けたいですね。

柿次郎:そうですね。頑張っていきましょう!

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Gyoppy! の話題になった記事のまとめはこちらです。このレポートを見て興味をくすぐられた方はぜひご覧ください。

執筆:しんたく、撮影:黒羽政士、編集:Huuuu

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