「遊び」と「仕事」を両立したい。徳谷柿次郎と長谷川リョーが目指すCAIXA像
ローカル領域に強みを持つ編集ギルドHuuuuと、スタートアップ領域を多く手がける編集集団モメンタム・ホース。
正反対の世界観で生きているかのようにも見える二社が、自社メディア『CAIXA(読み:カイシャ)』を共同で立ち上げます。
なぜローカルとスタートアップ領域という真逆のジャンルを掛け合わせようと思ったのか? その背景には、それぞれの会社における課題と、理想のチーム像がありました。
CAIXAはいかにして生まれたのか、Huuuu代表取締役の徳谷柿次郎と、モメンタム・ホース代表取締役の長谷川リョーが語ります。
構成:小池真幸(モメンタム・ホース) 編集:友光だんご(Huuuu)
ローカル×スタートアップ、なぜ真逆のジャンルを掛け合わせるのか?
長谷川:さて、そもそもどういった経緯でCAIXAを「やろう!」となったんでしたっけ? たしか2019年の4月ごろ、柿次郎さんから僕にいきなり電話がかかってきましたよね。
徳谷:そうそう、2時間近く話した気がする。ちょうどその頃「Huuuuの手がける領域を広げていきたい」と考えていて、モメンタム・ホースがスタートアップ領域でどんな仕事をしているのか、教えてもらったんですよね。
そうして相談していくうちに、「モメンタム・ホースが東京のど真ん中にいる読者に向けて届けている未来的な価値観と、Huuuuが手がけているローカルな先人の知恵を掛け合わせたら面白いんじゃないか?」と思いついて。
長谷川:次に会ったときにはもう「Huuuuとモメンタム・ホースで一緒にウェブメディアを立ち上げよう」という話になった気がします。
徳谷:「ローカル」と「スタートアップ」、ある種真逆にも見えるジャンルを掛け合わせてみたかった。この取り組みは、お互いの会社のメンバーを育てる点でも意味があると思うんですよね。Huuuuのメンバーも、ローカルの人たちばかり取材していると、どうしても編集者やライターとしてのスキルに偏りが出てしまう。
僕は分からないなりに雑誌の『週刊東洋経済』や『週刊ダイヤモンド』みたいな経済誌系のコンテンツによく触れていて、グローバルの経済変化や大企業の動向に興味があるんです。でも、CAIXAの編集長になった友光だんごはあまり興味がないみたいで。企画の幅を広げるために「ビジネス誌も読もう!」って言いたくなることもあるんですよね。
長谷川:うんうん、いい刺激を受けそうですね。モメンタム・ホースのメンバーも、スタートアップの人たちばかり取材していると視野が狭くなってしまう。ローカル的な世界観に触れて、編集者としてもっと成長して欲しいです。
「それっぽいことを言うスキル」は役に立つ? これからの編集者論
長谷川:この流れで、柿次郎さんに「これからの編集者の役割」を聞いてみたくて。業界的には、有名なオウンドメディアが次々と終了しちゃって、なんかメディア厳しいんじゃない?みたいな風潮もある。その一方で、企業の専属編集者である「インハウスエディター」という職種も普及しはじめている。だから、意外と編集者が価値を発揮できる領域が広がりつつあるんじゃないかなと。
徳谷:もちろん、そうして役割が広がっていったほうが編集者にまわってくるお金が増えるし、職業寿命も延びるでしょうね。
僕もインハウスエディター的な仕事はやってみたいけど、相当仲がいい人が相手じゃないと、できるイメージが湧かないなぁ。人間的に好きか嫌いか、で左右されちゃう気がします。取材を通じて「好きな人や領域を増やしていく」のが、自分の編集者としてのスタンスでもあるので。
長谷川:なるほど。たしかに柿次郎さんは「好き」をどんどん仕事にしている印象があります。
徳谷:先輩に「柿次郎くんの脳みそは“コピーライター”っぽいよね」と言われて、少し納得がいったんですよね。そう考えると、僕は一応経営者はしているけれど、本質的な「編集者」じゃないのかもしれないなぁと。
長谷川:え、急にどうしたんですか?(笑)
徳谷:タイトルや見出し、パンチラインみたいな言葉を考えるのは好きだけど、記事の構成とかについてロジカルに考えるのはあまり好きじゃないというか。立場や役割が変わるにつれて、細かいところよりも全体的な視点に意識が向くようになりました。
あと、裏方に徹した途端につまらなくなっちゃう。昔はぜんぜんそんなことなかったんですけど……。自分が取材同行していない記事になかなか情熱が持てない瞬間があって、書き手にしっかり伴奏できない違和感が最近あるんですよね。
長谷川:ああ〜、なるほど。それは別に「編集者」って言葉の定義次第じゃないですか? 僕の場合、経営者の方とディスカッションして、思想を言語化する仕事なども経験させてもらっていて。そこで、編集やライティングに携わる人ならではの「それっぽいことを言うスキル」は重宝されるんだなって気づきがあったんです。
「それっぽいことを言う」にも実は結構、センスや経験値が必要ですから、立派なスキルなのかなと。
徳谷:おお、ちょっと安心した……。そういうスキルも、とにかく人と会って話を聞くなかで磨かれると思うなあ。だから、今回の「箱」が増えることにはすごく意味があるはず。
普段の仕事の延長戦ではない、「狂った」一面を
▲CAIXAのメインビジュアルでは、展開する箱をイメージ
長谷川:CAIXAは単なるウェブメディアにとどまらず、自由に使える「箱」にしていきたいと言ってるじゃないですか。自由度の高さは自社メディアだからこそですよね。
徳谷:自社メディアみたいな文化的な投資は、Huuuuやモメンタム・ホースのような小さな会社ではなかなか難しい。けれど、二社協業なら経済的にもリソース的にも強くなり、実現できるんじゃないかと思っていて。これがワードプレスでいちからサイトを立ち上げて……って話だと、なかなか難しかったはず。
長谷川:サイトの維持費用もかかりますからね。その点、初期コストを抑えられるnote proは理想的でした。マガジン機能を使って特集記事を面で見せたり、有料記事を作ったり、色んな展開もできますし。
徳谷:令和時代のウェブメディアの形はこれだ!って言えるくらい、ちゃんと成功させたいね。だから、「お金」のこともしっかり考えなくちゃいけない。
長谷川:まあ、会社の事業ですからね。将来への投資って意味合いもありますけど、メディア自体でマネタイズできて、自走できるのが理想です。有料記事もいいですけど、やっぱり広告かなあ……。
徳谷:広告はやりたいですね。例えば、こういうnote記事の最後にバナー広告を毎回入れる。広告メニューは改めて詳細を告知しますが、まずは3ヶ月で5万円とか、それくらいの値段設定を考えています。紙媒体も作る予定なので、そこに載せる広告も募集したいです。
あとは記事広告もですね。Huuuuとモメンタム・ホースが全力で作った記事広告をCAIXAで載せる。二社が一緒に記事広告を作るなんてこともまずないですし、面白いと思います。この記事を読んでる経営者の皆さん、本気で募集してますので、営業かけていきます! 編集長のだんごさんが!
長谷川:うちの方でも頑張ります(笑)。あとは二社のメンバー以外のライターや編集者の人にも、どんどん関わってほしいですね。書きたいものを入れられる自由な箱なので。個人のnoteやブログで書くより、また違ったモチベーションで取り組めるとも思うんです。
徳谷:「今これを書きたい!発信したい!」ってネタがあれば持ち込んでほしいですね。スピード感の早さも自社メディアだからこそ出せると思いますし。少ないかもしれないけど、ちゃんとある程度の原稿料は払えるようにしますし。
もちろん、やってみなければ分からない、実験的な要素も大きいです。でも企画力と実力さえあれば、クリティカルな取り組みに挑戦できる「箱」にしたい。
長谷川:その結果、ちゃんと数字が出る記事もCAIXAで作りたいですね。モメンタム・ホースが普段手がけているスタートアップ系のコンテンツは、どちらかといえばニッチ向け。メンバーには自由度が高いCAIXAを活用して、めちゃくちゃバズって脳汁が出まくる感覚を味わってほしい。そうすれば、もっと別の企画を考えたくなり、良いスパイラルが生まれるはず。
徳谷:ああ、わかるなあ。めちゃくちゃ好きな趣味の領域で、「いまはコイツがヤバそう」って直感をうまいこと企画に変換していく。やっぱり、好きなものを熱く語っていれば届くべき人に届くのは、インターネットの良さですからね。
長谷川:普段の仕事では出てこない一面を見たいです。今までの延長戦ではない、狂った部分。
徳谷:やっぱり、なにか価値を生み出している人は、ただ「回す」だけでなく、与えられた以上のものを自発的につくり出していることが多い。遊びの中からしか面白さは生まれないと思うので、まずは楽しめ、と。まずはモメンタム・ホースとHuuuuのメンバーが関係を深めて、化学反応を起こす。そして外の人をどんどん巻き込んでいくって流れが理想です。
ウェットすぎる会社は、好きじゃない?
長谷川:そんなCAIXAでは「特集」も展開していくわけですけど、第一弾は「会社の価値」。柿次郎さんにとって、「会社」とはどんな存在ですか?
徳谷:うーん…メンバー同士の距離感がウェットすぎない会社が好きかもしれない。
長谷川:え、意外ですね。
徳谷:まあ、Huuuuはしょっちゅう一緒に温泉行ったり旅したりしてるんですけど(笑)。「会社のメンバーだから」という理由で、何かを強制されるのが好きじゃないんです。
今まで働いてきた会社も、「この会社で働きたい」ではなく、「この人と働きたい」という理由で所属してきました。編集者としての基礎を教わった有限会社ノオト代表の宮脇さんには上京直後にアピールして拾ってもらい、株式会社バーグハンバーグバーグ代表だったシモダテツヤとは、元々所属していた「オモコロ」の縁があるから一緒に働きたかった。
バーグハンバーグバーグは、立ち上げメンバー3人のタイミングで加入したんですけど、会社が大きくなっていく中でルールが増えて窮屈に感じた時期が正直ありました。今なら経営者としての感情や苦労も理解できるけど、当時はすごい反発してましたね……。
だからこそHuuuuでは、人に対して執着しないようにしていて。オフィスを持ちたくない理由もそこにあるかもしれません。
長谷川:僕は今でこそたくさんのことを学ばせてもらったと思っていますが、会社員だった当時はしんどかったですね。満員電車に乗ってようやく会社に着いたら、エレベーター待ちの長蛇の列ができていて、深夜まで働き、そこから帰って寝落ちするまで副業でやっていたライターの原稿を書いて…という生活。どんどんストレスがたまって、発散方法が食べることしかないからブクブク太っていきました。
何より、毎日同じ場所に行って、同じ人に会うことが性に合っていませんでしたね。学生の頃から、ライターとして色々な場所に行って色々な人に会う生活を続けていたこともあり、変化のないサイクルが耐えられなかった。
結局、グロービス・キャピタル・パートナーズの高宮さんが背中を押してくれて独立に至りましたが、あのまま会社員を続けていたらどうなっていたか分かりません。
どうやら二人にとっての「会社」は、決して良い思い出ばかりではなかったようです。
CAIXAの特集第一弾は「会社の価値」。
まずは、徳谷柿次郎と長谷川リョー、それぞれの「会社」員時代のキーパーソンに話を伺い、長年のもやもやを解消する対談企画からスタートします。
徳谷柿次郎は、ともに会社を飛び出した存在であるシモダテツヤさんと。
長谷川リョーは、会社を飛び出すきっかけをくれた、メンターである高宮慎一さんと。
各記事は11月に順次公開予定!「価値」をめぐる実験が、ここからスタートします。
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