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ライターの「個性」ってなんだろう?悩める若手が、先輩に聞いてみた。

「あなたの個性はなんですか?」

就職活動をしたことのある人ならば、一度は聞かれたであろうこの言葉。
脳内シナプスをフル稼働させて、それっぽい言葉を捻り出してみたものの、イマイチしっくりこない。これが本当に私の個性なのかしら……。そんなことを思ったことはありませんか?

僕は今、Huuuuという編集チームで編集・ライターとして働いています。
昨年の9月に未経験でこの業界に飛び込み、ちょうど一年が経ちました。慣れないライティングや取材に七転八倒しながらも、良い記事を作れるよう日々頑張っています。

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取材で札幌に訪れた際に撮った一枚


とはいえ、文章というものは、極端な話、プロでなくても書けるもの。
世の中に「ライター」として仕事をしている人は五万といますが、その中でも頭一つ抜けている人は仕事が「早い」「正確」であることの他に、なにかその人だけのスペシャルな個性を持っているように感じます。

僕もライターとして活動していく以上、何か自分だけの「個性」がほしい。……とは思いつつ、文章の中でそれらを出すのは容易なことではありません。インタビュー取材の性質上、ただただ奇をてらった文章はタブーだし、不用意に自分の個性を出そうものならば、編集担当から届く赤字ラッシュに涙を覚えることも。

そんなことをずっと考えた結果、とりあえずヒゲを伸ばしてみましたが、最近はなんだかそれも違うような気がしてきました。

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考えれば考えるほど、悩みは泥沼化していく一方。
このままではラチがあかないというわけで、今回は新人ライターが日頃感じる悩みを、先輩ライターにぶつけてみたいと思います。

僕より何倍もキャリアを歩んできた先輩ならば、きっと良い助言をくれるハズ…!

【登場する人】
●阿部光平:1981年、北海道函館市生まれ。フリーランスのライター。二児の父。雑誌やウェブ媒体で、旅行ガイドやライブレポート、インタビューなど様々なジャンルの取材・執筆を行っている。2021年3月に函館へ帰郷予定。
日向コイケ:1992年、神奈川県生まれ。Huuuu所属のライター/編集者。ライター歴は一年。四畳半の風呂なし物件で快適に暮らす方法を実験している。

話はヒゲから始まった

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日向:突然なんですけど、ヒゲを剃ろうと思ってるんです。

阿部:え? なに、いきなりどうしたの。

日向:僕、ライターになって一年経つんですけど、元々ヒゲを伸ばし始めた理由というのが、取材の「つかみ」になると思ったのがきっかけでして。

阿部:つかみ?

日向:取材って初対面の方に話を聞く機会が多いじゃないですか。そうなると、お互いどうしても少しは緊張すると思うんですけど、そういう時「君、ヒゲ長いね!?」みたいにイジれるポイントがあると、ちょっとした笑いが生まれて便利だったんです。

阿部:ヒゲの長さを会話のアイスブレイクにしてたんだね。

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日向:新人なりに自分の「個性」を見つけようと必死だったんですよ。でも、そうやって見た目のキャラが立ってくると、今度はその期待に応えられるほど、自分に実力が伴っているのだろうか……と悩むことが増えまして。見た目と実力の乖離というか。

阿部:自分の個性だと思っていた「ヒゲ」が重荷になり始めたと。難儀だねぇ。

日向:まぁ、少し大げさな話かもしれないんですが、今回はこの悩みを切り口に「ライターの個性」について、阿部さんとお話したいなと思って。

阿部:なるほど、面白いテーマだね。ちなみに、なんで俺に聞こうって思ったの?

日向:阿部さんって、僕と同じようにヒゲ長いし……。失礼ですけど、結構見た目のインパクト強いじゃないですか。

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 阿部:なるほどね(笑)

日向:そもそも阿部さんはなにかヒゲを伸ばしてる理由ってあったりします?

阿部:うーん。正直に言えば「楽だから」だよね。ヒゲをいちいち剃るのって面倒だし、髪を結んでるのもワックスつけて整えるのが面倒だから。あんまりそういうところに時間を気を使いたくないんだよね(笑)。あとは、奥さんの好みかな。

日向:えー! 奥さん公認なの羨ましいなぁ。僕の場合、彼女に「そろそろヒゲ整えないの?」って言われても、「おれはこれで飯食ってるんだ」って突っぱね続けて、ここまできましたからね。

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阿部:わははは、大袈裟!! でも言われてみれば、ライターの「見た目」が取材の良し悪しに関係するっていうのは、ちょっと分かるかもしれないな。

日向:ほう!と言いますと?

阿部:超わかりやすいところで言えば、企業に取材に行くときは、失礼のないようにジャケットを着るとか、サンダルは避けるとか。

日向:あー、TPOに応じた服装を選ぶってやつですね。

阿部:そうそう。あと俺の場合はアウトドア系の取材をすることが多いんだけど、そういう時、ジーンズにネルシャツみたいなラフな格好で行ったら、取材相手に「あ、コイツ分かってないな」って思われるかもしれないじゃん。それで向こうに敬遠されちゃうと、突っ込んだ話とかしにくくなるから、アウトドアっぽい格好は意識していくよね。

日向:たしかに。場合によっては「山をなめてんのか」って怒られる危険性もありますね。

阿部:だからライターの「見た目」で一つアドバイスをするなら、失礼がないことは大前提として、相手になめられないようにするっていうのは意外と大事なことかもしれないね。

日向:初っ端からめちゃめちゃ実用的な助言だ……!

ライターの個性ってなんだろう?

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阿部:そもそも俺は、ライターの個性って、見た目でもないし、もはや文章でもないと思ってるんだよね。

日向:え?文章もですか? 見た目はある程度納得いきますけど、ライターたるもの文章で個性を出せなかったら、一体どこで出せばよいのでしょう。

阿部:もちろん文章が「分かりやすい」とか「面白い」っていうのは大事なんだけど、それってプロのライターを名乗る以上は持っていて当たり前のスキルというか。

日向:個性うんぬんの前にまずベースとして備えておくものだと。

阿部:でも、そういうスキルって一定のところまでいくと差別化が難しいんじゃないかなって。だから、他の人との違いを出すことを考えると、ライターの個性は「着眼点」にあると思うんだよね。

日向:着眼点っていうのは、どこに面白みを見出せるのかみたいな?

阿部:そうそう。同じ取材相手に話を聞いたとしても、ライターそれぞれでアプローチの仕方は変わってくるだろうし、フォーカスする部分もだいぶ違ってくる。

日向:そのアプローチやフォーカスの差は、ライターの着眼点にあると。

阿部:よく先輩編集者が「本を読め」とか「映画を観ろ」っていうじゃない。それって、自分の着眼点を養うのに役に立つからだと思うんだ。知識や経験を身につけると感知できる領域が広がるから、着眼点も豊かになる。それが結果として書き手の個性にも繋がるんじゃないかなって。

だから、日向くんが言ってた「見た目と実力の乖離」って、webライターっぽい悩みなのかもなって感じたんだよね。

日向:webライターっぽい悩み?

阿部:日向くんが書いてる『ジモコロ』とかは特に顕著だけど、Webって「こんにちは。〇〇です」っていう書き出しで始まることが多いじゃない? でも紙媒体はライターが顔出しすることって基本的には少ないから。

日向:あー、たしかに。

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ジモコロ「風呂なし四畳半アパートに住んでる27歳男だけど、めっちゃ快適【都内/駅近/家賃2万9000円】」より

阿部:webをメインに活動している日向くんだからこそ、見た目のキャラクター性とかキャッチーさを強く意識してるのかもなって。実際、俺も書くメディアによって、自分の中のチャンネルを意識的に切り分けてたりもしてて。

日向:へー!どうやって使い分けてるんですか?

阿部:現場の立ち振る舞いは基本的には一緒だけど、アウトプットが全然違うというか。やっぱジモコロみたいに書き手のキャラクターでグイグイ引っ張るような記事はキャッチーさを意識するし、企業の広報誌を作るみたいな取材の時はほとんど黒子役に徹する。だからメディアによって自分の出し方が全然違うんだよね。

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日向:媒体のカラーに合わせて自分のキャラクターを使い分けていると。それはやっぱり広い着眼点を持っているからこそ、為せる技なのかもしれませんね。

阿部:でも実は俺もWebの仕事が増え始めた頃、「個性出さなきゃ」って思っていた時期があってさ。30代前半ぐらいに、地面に寝っ転がって書くストリートライターっていうキャラクターを試してたこともあったんだよね。

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日向:え!めちゃめちゃキャラ付けしてるじゃないですか! 

阿部:そうなんだよね。元々ライターのキャリアは紙がスタートだから、Webで活躍する人のスタイルをいろいろ参考にしてさ。でも結局、途中から「俺、無理してるな」って感じて封印した(笑)。

日向:具体的にはどういうきっかけがあったんですか?

阿部:一つは、単純に「40歳になってもこのキャラクターできんのか?」って思っちゃったんだよね。で、これから先のことを想像した時、自分が読んでいて好きな文章は、ライター個人のキャラクターを押し出しているものじゃなくて、取材相手の雰囲気とか現場の空気感が伝わってくるようなものだなって。

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日向:自分のなりたい姿を再認識したんですね。

阿部:そうだね。それが分かってからは、自分が本当に磨くスキルはそっちじゃないなと思って、「ストリートライター」っていうキャラクターは捨てたんだよね。

ライターを始めたきっかけと続けられた理由

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日向:阿部さんって、紙とWebどっちも経験してるんですよね。どんな経緯でライターとしてのキャリアをスタートさせたんですか?

阿部:ライター職に就いたのは、大学卒業後に世界一周の旅をしたのがきっかけだね。ヒッチハイクとか野宿をしながら色々な所を巡ってさ。最後に訪れた国が香港だったんだけど、もうその時には所持金が2000円くらいしか残ってなくて。

日向:2000円て!今どきの中学生の方が持ってますよ。

阿部:でもお腹は減るから小汚い大衆食堂で飯食ってたら、いきなり日本人のおっちゃんに話しかけられたの。なんか面白そうだなーと思って、その人に旅をしながら書いていた日記を見せたら、「お兄さん、うちで文章書いてみない?」って言われて。

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日向:え!?

阿部:というのもそのおっちゃん、実は某空港会社で飛行機の機内誌を作ってる人だったんだよね。

日向:道端で偉い人と遭遇してサクセスするとか、ほぼ『サラリーマン金太郎』じゃないですか!

阿部:で、その機内誌で一年ぐらい文章を書いてたら、それを読んでくれた別の出版社の人からも声かけてもらうようになって。当時は日本でパワースポットがめっちゃ流行ってて、旅行系のライターがすごい重宝されてたんだよね。

日向:そうしてどんどんライター業に進んでいったんですね。

阿部:そうだね。その頃自分が書いていた記事はあらかじめ書く内容も字数も決まってたものが多かったんだけど、そのときにライターのお作法を学べたような気がする。そこから結局一度も就職することなく今に至る……って感じだね。

日向:「ライター業で食っていくぞ」って思ったきっかけはあったんですか?

阿部:当時は旅行して、文章書いて、お金もらえるなんて最高じゃん!って思って始めたんだけど、機内誌で書いていたときに得た手応えの感覚は大きいかもね。そのときの楽しさが続いていて、なおかつずっとそれを追い求めているんだと思う。

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阿部:あと、ライターは「一人でもやれる」っていうことも大きかったな。

日向:それはまたどうしてですか?

阿部:自分の気質的に、大勢のチームでやるのが合わなかったんだよね。バンドを組んでいたときも、大学で映画を撮っていたときも、みんなと温度感が合わないことが多々あって。だけど、文章を書くことは一人でもできるじゃん。

日向:でも一人でやるってしんどいことも多いですよね。それなりに葛藤してきたと思うんですけど、それでも、阿部さんが「書き続けたい」と思えた原動力は何だったんですかね?

阿部:世界一周をしてたときにさ、「もし自分が音楽家だったら、画家だったら、この感動をどう表現できるだろう」って思う瞬間がたくさんあったんだよね。だけど俺は、音楽も絵もできなかった。それでもなにか表現できる方法はないかって考えたときに、文章だったら自分の感動を伝えられるかもなって思ったんだよね。

日向:なるほど。そうして自分のやりたいことを手繰り寄せていった先に見つけた職業がライターだったと。ちなみに阿部さんって今おいくつですか?

阿部:今年で39歳になるね。

日向:39歳というと、大学卒業してから15年ぐらいフリーランスとして続けてきたわけですよね。なにかこの先のビジョンとかあったりしますか? 巷では「フリーランス、40歳限界説」みたいな話もありますけど。

阿部:あれだよね、40歳を迎えるとフリーランスが難しくなるって話だよね。

日向:そうですね。阿部さんが、2年後の40歳という壁をどう捉えてるのか気になります。

阿部:んー、正直そこまで不安には感じてないなぁ。

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日向:えっ!不安じゃないんですか?

阿部:うん。仕事を失うことへの恐怖はないかな。もしかしたら、現実が見えてないだけの話かもしれないけど、今のところは40歳の壁に対して不安はないかも。

日向:なにがそう思わせるんでしょうか?

阿部:就職したことがないっていう経験が根底にあるからだと思う。いざとなったら、また自分で何かはじめてみようって。あと、世界一周したときには「どこでも生きていける」って思ったのは大きいかなぁ。これまでの経験とか身につけてきたスキルはなくならないし、人に盗まれたりもしないじゃん?

でも、唯一失うものがあるとすれば、

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それは「信頼」だと思う。

日向:信頼……ですか?

阿部:俺が仕事を引き受けるときのポイントは3つあって、一つ目はギャラ。二つ目は、その仕事をやることで自分にとってプラスになるか。で、三つ目がその仕事を依頼してくれる人との信頼関係。長く続いている仕事は、そういう信頼でつながっている人たちとやっているのが多いんだよね。

日向:信頼で人とつながっていたからこそ、書く仕事を続けれてこれた。

阿部:そうだね。信頼は、ライターの個性を越える「武器」であり「支え」だと思う。だから俺が40歳になったときにもし仕事がなくなっても、これまでの信頼関係でつながっていた人たちは味方になってくれるんじゃないかなって。

日向:過去に築きあげてきた信頼の積み重ねが、その先のライター人生を支えているんですね。その信頼を得るためにできることって何だと思いますか?

阿部:んーやっぱり、与えられた仕事に対して良いパフォーマンスを発揮することと、約束を守ることだと思う。だから最初の話戻るけど、もし今の日向くんが周りからの信頼をしっかり得て自信を持っていたら、見た目のキャラクターなんて気にならないと思うし。

日向:たしかに……。僕は自分の及ばない部分をヒゲというキャラクターで誤魔化そうとしてたのかもしれません。

阿部:気持ちは分かるよ。でもまだライターの仕事もはじめたばかりだし、キャラクターで悩むより、この先の伸び代があるスキルとか着眼点を磨くことに時間を使ったほうが、今後の日向くんにとってよりプラスになると思うんだよね。

当たり前だけど、俺も今までライターをしてきて、「ヒゲが立派なので仕事をお願いします」なんて経験は一度もないからさ(笑)

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日向:なるほど……。ライターとして1年終えたタイミングでこうして悩み相談できてよかったです。おかげで、2年目の目標が定まったような気がします。

阿部:それは良かった! なんかいろいろ偉そうに言ったような気もするけど、おれもまだまだ発展途上のつもりだからさ、一緒に頑張ろうよ。

ライターっていい仕事だなと思うんだよね。経験してきたことが、ちゃんと自分の個性になるから。世界一周してたとか、同じバイトを10年続けてたとか、甲子園の決勝で負けたとか、そういう経験があるからこそ理解できたり、書けることってあるんだよ。良かったことも悪かったことも、人生が丸ごと糧になる仕事だなって。

日向:「人生がまるごと糧になる仕事……」かぁ。仕事で迷った時はその言葉を思い出そうと思います。今日はありがとうございました!


構成:後藤なな
写真:友光だんご
執筆:日向コイケ

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